扉
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
扉(とびら)、ドア(door)とは一般に建物、部屋や家、自動車・鉄道車両・航空機などの乗り物の出入り口につけられる建具である。戸(と)とも言うが、扉は開き戸、戸は引き戸の事を指す事が多い。
人や物の出入りを主目的しない建物の開口部は窓に分類される。
目次 |
概要
扉は建具のうちでも人や物の出入りに伴って頻繁に操作される部分であり、そのため開閉には多くの力を必要としない構造上の工夫が凝らされる。その一方で建物の内外を遮断するという目的においては、必要の無いときには開け放たれないよう、ラッチ状の留め金が組みつけられたり、鍵などによって閉鎖する機能を備えるものも多い。
こういった扉の機能は、主に内外を隔てるものであるが、その理由は様々である。一般の住宅・建築物では風雨や動物・望まれない部外者の侵入を阻むものであるが、乗物では逆に移動中に乗っている者(乗員)ないし物(貨物)が外部に飛び出さないようにするためにも設けられる。エアロックのように、内外の気圧差(圧力差)を保持するための扉もあり、これらは建物や乗物を容器とみなすならば、その内外を隔てる一種の弁としての機能を果たすものと見ることも出来よう。
扉は必要性に応じて、様々な機能性が追加される場合もある。前述の鍵がその最たる例だが、鍵そのものが強固でも扉が簡単に破壊されては閉鎖の用を成さないため、こと衆人が自由に往来する戸外と屋内とを閉鎖する必要性のある扉や内部に貴重な物品を納める扉は強固に補強される。一方で、自動車の扉のように交通事故によって変形しても開閉するという機能が妨げられないよう強化された構造をもつものもあり、また自動ドアのように、自動化され機械的な動力を利用する扉もあるなど、必要に応じて様々な扉が利用されている。
なお、訪問者が建物あるいは部屋の中の人間を呼び出すために、扉にノッカー(扉を叩くための金具)やドアホンが取り付けられることもある。
種類
機構による種類
開き戸
蝶番で止められた部分を軸に弧を描いて開閉する。現代の建物では、ノブを回してあけるものがほとんどである。蝶番の発明以前(発明後でも伝来していない地域)においては、戸の一端に軸材(「とぼそ」「くるる」等と呼称)を通したものも存在した。
片開き戸と両開き戸があり、両開き戸は観音開きといわれる。
引き戸
溝やレールに案内され、左右に戸をスライドして開閉する。自動扉(自動ドア)も引き戸である場合が多い。引き戸を開いたときの収納スペースを戸袋という。鉄道車両では一般的で、路線バスの中扉でも使われていることが多い。
戸袋を持たないものの、閉めた時に外壁と面一になるプラグドア(観光バスやワンボックスカー、一部の鉄道車両で使われる)も、機構的には引き戸の一つといえる。
グライドスライドドア
間口の取れない場所や、バスなど(特に都市新バス、ノンステップバスの前扉)に用いられている、開き戸と引き戸の長所を組み合わせ、ヒンジに当たる回転軸(支点)が、リンク機構で移動するタイプのものを、グライドスライドドアと呼ぶ。
折戸
家庭ではユニットバスの出入り口によく用いられる。移動手段としてのバス(主に前扉に使われるが、近年のものは前扉に上記グライドスライドドアを採用したものが多い)や、一部の鉄道車両(主に特急用主体)の乗降口にも使われ、車体構造やスペースの都合で、戸袋を設けることができない場合に採用される。バス車両(中扉)や一部の客車においては折戸を2つ組み合わせた「4枚折戸」も存在する。
回転扉
羽根状についた扉が筒型の風除室を連続的に回転し、室内と室外の遮断を維持したままの出入りを実現する。空調効果を高めるために大型商業施設や超高層ビルで導入されることが多い。楕円形にすることで車いすの出入りに配慮したものや、引き戸と組み合わせて自動車など大型物品の搬入を可能にするもの、非常時には扉を畳んで出入り口を開放することのできる機種など様々な種類が開発されている。回転扉を導入するメリットとしては、「建物内の密閉性を維持して冷暖房の空調効果を高めること」と「外から吹き込む風によって建物内の部屋のドアが開きにくくなる現象を防げること」が挙げられる。また、東京ドームのような空気膜構造(室内の気圧を高めて屋根のドームを膨らませる)のドーム建築物にも、内部の空気が漏れにくいように、通常の出入口用に回転扉が用いられる。
日本では気圧差が激しい高層ビルでの用途の為に高い強度が必要であり、また、豪華さを見せるためにステンレス張りにされたりすることで、大幅に重量化される傾向にあった。しかし、設計に用いられた安全基準は従来の軽量機種を前提としたものが使用されており、大型化に必要な見直しがなされていなかった。そのため、挟まれた人間にかかる荷重が大きくなり、大きすぎる慣性モーメントにより十分な制動もできず事故が多発してしまった。2004年3月には六本木ヒルズ森タワーで男児が挟まれ死亡する事故が発生している。この事故を受けて回転扉の事故原因究明を目的とするドアプロジェクトを設立した畑村洋太郎は、センサーによる制御に頼る現状を危険だとして、軽量化や接触時に扉が退避する構造により本質的な安全を確保する必要があるとしている[1]。
また、誤停止を避けるため事故防止用の赤外線センサーの死角を拡大していたり、安全装置をつけていないことも重大事故につながる。
ヨーロッパではホテルや商業施設などで日本よりも普及しているが、そもそも安全のためにドアの自重の軽量化が図られている。
引込み扉
引戸の操作性を持つ開戸タイプの扉。軸をスライドさせながら開く。戸の引き代スペースを確保できない場合などに使用される。
動力による種類
自動扉
詳細は「自動ドア」を参照
主に電気を使い扉を開閉する扉で、ここまでに述べたすべてのタイプの扉には自動扉が存在する。
手動扉
自動ドアでないことを強調したいとき、手動ドア、手動扉と言うことがある。
日本のドア・シャッターメーカー
- 三和シヤッター工業
- 文化シヤッター
- YKK AP
- ナブテスコ
- ナブコドア
- 東洋シヤッター
- 住生活グループ(旧INAXトステム・ホールディングス、トステム、トステム鈴木シャッターなど)
- 寺岡ファシリティーズ
- 日本シャッター製作所
- ユニフロー
脚注
- ^ 高野敦 「事故は語る 回転ドア死亡事故の「真相」進歩の過程で希釈された安全思想」『日経ものづくり』5月号、日経BP、2005年。pp.230-233
回転扉の持つ運動エネルギーを制限するため、回転速度には制限値が設けられている本来なら質量が増大するに伴い制限値を下げ危険を防ぐ必要があるが、その意義が十分に理解されないまま同じ回転速度で設計され、六本木ヒルズ森タワーの事故につながっている。
関連項目