調律
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調律(ちょうりつ)とは、楽器が発する音のピッチを演奏の目的に適うように調整すること。
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概要
複数の楽器間のピッチを一致させることも、ひとつの楽器の複数の発音部分を調和させることも調律である。いずれにしても基準となるひとつのピッチを決定するプロセスがはじめに必要であり、クラリネットのように発音部分がひとつしかない楽器では、このプロセス自体が調律である。またピッチとは関係なく、英語の tune up が音程を合わせるという意味と調整するという意味があることから、楽器を正常に使用できる状態、ないしは使いやすい状態に調整することを指してチューニングということもある。このような目的で楽器をリペアに出すことを「調整に出す」とも言う。
調律には大きく分けて2つのステップがある。第一は、上述のとおり、演奏に先立って楽器のピッチを合わせる過程である。第二は、演奏中に自分以外の奏者や歌手が出す音程と自分の楽器が出す音程を合わせる過程である。一般的に調律とは第1のステップを指すことが多い。
「ひとつの楽器の複数の発音部分を調和させること」を音律調整という。また、特に弦楽器における調律を調弦と呼ぶことがある。
演奏に先立ち楽器が調律されているのに、なぜ演奏中に絶えず調律するのかというと、次のような理由がある。
- 管楽器は、原理的に平均律を出すことが不可能であるため。第二に、和音を純正律で響かせるため。第三に、演奏中に合奏体全体の音程が上ずってきたり下がってきたりすることがしばしば起こるので、それに対応させるため。ただし、ピアノやシロフォンなどのように、一度調律されると演奏中に音程を変えられない楽器には、この過程は存在しない。この理由では、平均律で演奏することは音楽的に必ずしも適切とは限らないが、ユニゾンでメロディを演奏するときには平均律かそれに近い音律で演奏するのがふさわしいことがある。特に管楽器は、その種類によってピッチが高くなりがちな音や低くなりがちな音がある。たとえば、ある楽器ではロの音が低くなりがちであるというように。このように、異なったピッチの特性をもつ管楽器同士がひとつのメロディを演奏する場合、そのままでは他の楽器と微妙にピッチがずれてしまう。優秀な奏者は自分の楽器のピッチのくせを知っていて、他の楽器と音程がぴたりと合うように、演奏中に絶えず調律を行うものである。
- 和音を濁りなく演奏するためには、平均律とは違った音程の取り方をする必要がある。たとえばドミソの和音では、ドに対してミをやや低く、ソをわずかに高く演奏する必要がある。管楽器や弦楽器では、演奏中にピッチを変えることができるので(楽器や音によりその程度に制約があるが)、可能な限り純正に響くように演奏中に音程を調整する。
- 長時間演奏しているうちに、たとえば弦楽器ではだんだんと音が低くなっていき、管楽器ではだんだんと高くなっていく傾向がある。これは、弦がゆるんできたり、管が温まってきたりするためである。これにより、合奏体全体の音程が上ずったり下がったりする。全部の楽器がまったく同じように音程が変わっていけばあまり問題はないのであるが、たとえば同じ管楽器でもオーボエよりトランペットの方が音程の上ずりが大きい。まして弦楽器と管楽器とが合奏する場合は音程のずれ方が反対であるため、絶えず相手の音を聴いて、ずれた音程にならないように演奏中に絶えず調律する必要がある。
西洋音楽の楽器の調律
- 演奏に先立った調律:日常的な調律は、管の抜き差しによって行う。イ音または変ロ音で基準音を出し、その音に合わせるのが普通である。
管楽器の調律
木管楽器
- 演奏に先立った調律:歌口(口を付けるところ、マウスピース)に近い部分のジョイント部分で、管の抜き差しを行う。それ以外にもジョイント部分がある楽器では、適宜そのジョイント部分でも管の抜き差しを行う。
- 演奏中の調律:アンブシュア(歌口をくわえる圧力など)や、息の勢い、替え指で行う。リコーダーのような楽器では、替え指を使ったり、息の強さを変えたり、シェーディングといって音穴(トーン・ホール)を中途半端に塞いだり、スライド・フィンガリングといって音穴から指をずらして隙間を空けたりしてピッチをコントロールする。フルート、ピッコロでは楽器に対して息を吹き込む角度の変化でピッチが大きく変化する。
金管楽器
- 演奏に先立った調律:管の途中のU字型のスライド式の二重抜き差し管(チューニング管、チューニングスライド、などと称する)の抜いた長さを調整して行う。U字型ではなく直管部分にチューニングスライドがある楽器もある。
- 演奏中の調律:息のスピード、アンブシュア(唇の力の入れ具合)や、替え指で行う。トランペットのようにバルブのスライドの長さを指で変えられる楽器ではそれも使う。トロンボーンではスライドポジションの修正でも行う。フレンチホルンではベルに差し込んだ右手の調整でも行う。
ピッチとイントネーション
ここでは、音の高さのことをすべてピッチという語を用いて説明してきたが、管楽器においてピッチとイントネーションとでは意味が違う。ピッチとは、物理的に管が振動する周波数のことである。たとえば、クラリネットで A の指使いをしたとき、物理的に共鳴する周波数が 440Hz であれば、これが A の指使いにおけるピッチである。奏者が正しく演奏したときには 440Hz の音が響く。しかし、唄口をくわえる強さを加減したり、息の強さを変えたりすることで、物理的な共振周波数よりも強引に高いまたは低い周波数で振動させることができる。このようにして変えられた周波数で演奏されたとき、その高さの音をイントネーションという。
ピアノやシロフォンなどにはピッチはあるが、イントネーションはない。
ヴァイオリン属の楽器やギターの調弦
- 演奏に先立った調律 - オーソドックスな方法
- 糸巻きを回すことによって弦の張力を変化させ、開放弦の音高を変える。普通、最初にイ音で基準音を出し、ヴァイオリンとヴィオラとチェロではイ音の高さの弦をそれに合わせる。次に、5度調弦(隣接する弦同士の音程が完全5度である)であるので、隣接する弦を同時に弾き、高い弦の第2倍音と低い弦の第3倍音のうなりを用いて順次隣接する弦を調弦する。ただし、チェロではそれらの倍音をハーモニクス(フラジオレット)を使って出し、同音同士で調弦することも行われる。コントラバスでは多くの場合、最初に第2弦の第3倍音を基準音のイ音と合わせる。順次隣接する弦を調弦するが、4度調弦であるので、高い弦の第3倍音のフラジオレットと低い弦の第4倍音のフラジオレットを出して調弦する。
- ギター・リュート属は他の弦楽器と違い、4度調弦、途中に長3度が含まれる。ハーモニクスを用いるのが好まれるが、フレットは平均律を用いており、5フレット、7フレットのハーモニクスで調弦すると、高音弦になるにつれ、徐々に低く狂ってしまい、低音と合わなくなる(7Fハーモニクス---各弦の純正完全5度---は7F実音よりわずかに高い)。調子笛(ピッチパイプ)と呼ばれる、各弦の音高を出す笛を用いることも特に初心者の間では行われる。
- 演奏に先立った調律 - 電子チューナを使った調弦
- 今日では、ギターなどのポピュラー系の楽器の調弦はチューナと呼ばれる電子機器を使うのが一般的である。エレクトリックギターの場合は直接ギターの出力を、アコースティック楽器の場合は内蔵マイクロホンや洗濯バサミ状のピックアップで拾った音を電子的に処理し、一番近い音名とそこからのずれをアナログメーターを模した液晶の表示器でセント単位で表示したり、「フラット気味」「丁度よい」「シャープ気味」などのLEDで表示する。電子チューナは、楽器の初心者にとって最初の難関である調弦のハードルを著しく下げるだけでなく、練習時や調弦の音を出しにくい、あるいは聞きにくいライブ会場での迅速かつ正確な調弦に大いに役立つ。ギターに限らず、琴や三味線など伝統的な楽器にも使われ、初心者用の「入門セット」に含まれていることが多い。
- 演奏中の調律
- 弦を押さえる指の位置をわずかにずらして行うが、開放弦の音は演奏中に調律しようがない。ギターのようにフレットがある楽器でも、優れた奏者は演奏中に音程を微妙に変化させて調律することができる。
ギターにおけるイントネーション
ギター、特にエレクトリックギターでイントネーションと言う場合は、フレットの誤差を補正することを言う。ギターはフレットが固定されているので、一度調弦をすると各フレットポジションのピッチは固定される。しかし、ネックの収縮や弦の伸び、温度などのさまざまな要因により、各フレットポジションでのピッチが必ずしも設計どおり(ほとんどの場合は平均律)になるとは限らず、開放弦で厳密に調弦しても例えば1オクターブ上の12番フレットの音がオクターブから微妙に上下にずれてしまうことがある。多くのエレクトリックギターは、ブリッジ部分にねじで弦の支点を弦長方向に微調整する機構を持ち、これをイントネーションと呼ぶ。
打楽器の調律
太鼓の調律
音程を持たない太鼓の調律
- 演奏に先立った調律:大太鼓、小太鼓などの太鼓には、リムに複数の調律ねじが付いていて、これを回すと皮にかかる張力が大きくなったり小さくなったりする。太鼓は明確な音程を持つ楽器ではないが、よく響く音程というのは存在する。皮にかかる張力が弱すぎるとたるんだ音になり、強すぎると皮を傷める。皮の中心を挟んで 180 度離れた調律ねじを対として扱い、360 度どの角度からも均一な張力がかかるようにし、皮にかかる張力が強すぎず、よく響く音程に調節する。
ティンパニの調律
ティンパニは明確な音程を持つ太鼓である。
- 演奏に先立った調律:リムに複数の調律ねじが付いていて、これを回すと皮にかかる張力が大きくなったり小さくなったりする。このことによって音程が変化する。皮の中心を挟んで 180 度離れた調律ねじを対として扱い、360 度どの角度からも均一な張力がかかるように調律する。
- 演奏中の調律:ペダル・ティンパニであれば、演奏中にペダルを上下させることで音程を変えることができる。また、ペダルはグリッサンド奏法に使用することもできる。ハンドル・ティンパニでは、同様の作業をハンドルを回すことで行う。
木琴、鉄琴の調律
シロフォンやマリンバなどの木琴、ビブラフォンやグロッケンシュピールなどの鉄琴は、楽器の製造過程ですでに調律されている。通常、奏者や調律師によって、演奏に先立って調律されることはない。ただし、楽器を破損したり、出荷時の調律が狂っていたりする場合は、リペアに出すことで再調律することができる。
ピアノの調律
ピアノでは、低音域を除き、各音に3弦ずつ使われている。調律の前に、フェルトで、3本のうちの2本の弦を押さえて響かないようにする。最初に中央ハの上のイ音を音叉など基準音を用いて合わせる。以後、中央のオクターブについて、色々な2音程間のうなりを用いて音を合わせる。十二平均律に合わせる場合、うなりをなくすのではなく、規定のうなりの数になるようにする。次に、中央のオクターブの音からオクターブ関係を用いて、すべての音について音を合わせる。最後に、フェルトを入れ替えたりはずしたりしながら、3本の弦が同じ高さになるまで調律する。ピアノの調律は非常に専門的な技巧を必要とする。また、近年ベートーヴェン以前のピアノ曲を演奏する際、中全音律等の古典調律法が採用される場合が一般的になってきている。設置された環境や求める状態にもよるが、日本の一般家庭の場合、最低でも一年に一回の調律が推奨されている。調律を専門的に行う職業、またはそれに従事する者をピアノ調律師(pianotuner)という。
ピアノの調律も、今日では電子チューナを使った方法が一般的になりつつある。電子チューナを使うと、200本以上ある弦を迅速かつ正確に調律できるだけでなく、高音部のピッチをわずかに高めにしたり、同じ音の3本の弦のピッチをわざとわずかにずらすことによりうなりを生じさせて音にふくらみを持たせるなど、従来調律者の経験と感性に頼ってきた「味付け」まで機械の表示あるいは指示を参照しながら行うことができる。だからといって電子チューナさえあれば誰でもピアノの調律ができるわけではない。ピアノの機構全体の深い理解とともに、チューニングピンのバックラッシュの制御や、次の調律予定時期までの間の変動を見越すなど、専門のトレーニングと経験が必要である。
邦楽の弦楽器の調律
雅楽
音取り
雅楽では、演奏会などで曲に先立ち音取り(ねとり)と呼び、短い楽曲のような形式で行う。その調の雰囲気をあらかじめかもし出すためでもある。つまり調律自体が演目に含まれている。
近世邦楽
邦楽、特に近世邦楽、殊に地歌では、転調に対応するために曲中で調弦を変えることが行なわれる。三味線では解放弦に音階上の主要音を割り当てるため、いくつかの調弦法があり、属調や下属調への転調のために、曲の途中でその演奏に適する調弦法へ変換するよう作曲されている。曲によっては二回以上調弦を変える曲も少なくない。箏でも同様である。ただし両者とも、ごく一時的な転調にはポジションを変えたりすることで対応する。また、とくに三味線の場合、転調とはまた別に、調弦法によって響きが違い、それが特有の雰囲気をかもし出すことも重要である。
箏の音取り
箏については、現在は調律笛で基本となる音(主に一絃)を調律し、その音を基準に調律(平調子であれば一絃に五・十絃を合わせる)する。
関連項目
参考文献
- Meffen, John 『調律法入門 ピアノから金管楽器まで』 奥田恵二訳、音楽之友社、東京都新宿区、1985-05-01(原著1982年)、初版(日本語)。ISBN 4-276-12420-4。
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